中小企業の抱える経営課題
この記事では、データを用いて「中小企業の抱える経営課題」と「中小企業の経営者の多くが課題を解決出来ない理由」を確認した後、経営課題を解決する為におすすめ出来る方法について解説します。
中小企業の経営課題とは
まず、中小企業が抱える経営課題について確認します。
データでみる中小企業の経営課題
中小企業の経営課題については、日本政策金融公庫が定期的に調査を行っているデータが存在します。
その2020年版のデータによると、中小企業の過半数が取り組まなければならないと考えている経営課題は2つです。
1つは、「営業・販売力の強化」。
もう1つは、「人材の確保・育成」です。
ただし、注意して頂きたいのは、10年前の同データを確認すると、過半数の中小企業が経営課題と考えているのは、「営業・販売力の強化」だけなのです。
これらのデータからは、「営業・販売力の強化」が中小企業の長年の課題であり、10年前から変わっていない事。そして、「人材の確保・育成」については、この10年で主要な経営課題になった事が確認出来ます。
※日本政策金融公庫総合研究所「2020年の中小企業の景況見通し」および「2010年の中小企業の景況見通し」より。
中小企業の経営課題の実態
中小企業においては、「とにかく販売(営業)力を強化して売上を確保しない事には、全てが始まらない」と認識されている経営者の方が多いように感じます。
多くの中小企業の経営状態を踏まえると、その認識は間違いではないでしょう。
注意して頂きたいのは、「人材の確保・育成」という経営課題との関係です。
お気づきになっていない経営者の方もいらっしゃいますが、実は、「人材の確保・育成に失敗した(または、手を付けられなかった)結果、営業・販売力の強化に失敗し続けてきている」という関係が成り立つケースは多いのです。
また、会社によっては、「営業・販売力の強化に失敗した結果、人材の確保・育成にも失敗している」という逆の関係が成り立つ場合もあります。
この点については、この後、詳しく解説します。
中小企業が経営課題を解決出来ない理由
中小企業の経営環境は劇的に変化してきました。しかし、中小企業の多くは、その変化ほどには自社を変化させられておらず、「従来と同じようなやり方での事業運営」を続けています。
これは、大手企業が優秀な人材を活用する事によって、「業務の進め方」や「販売・マーケティングの方法」を変化させてきたのとは対照的です。
しかし、中小企業の多くは、そういった変化を実現させる為の人材が不足しています。この為、「自社を変化させたくても、それを実現させる事が出来ない」という状態に陥っています。
この為、「営業・販売力の強化」を経営課題として認識はしていても、解決が出来ない中小企業が多いのです。
そして、そのような状態が続く事で会社の体力が低下し、社内の人材育成が手薄となっている中小企業も増えています。また、外部から見た会社の魅力が低下し、優秀な人材の採用が難しくなってしまっている中小企業も増えています。
これらは、更なる人材不足を引き起こします。そして、自社の経営課題の解決を一段と難しくします。
このように、中小企業の多くは、悪循環のような状態に陥っていると言えます。これが、中小企業特有の経営課題を解決できない理由です。
外部の専門家を活用できていない中小企業
規模の大きい会社は、社内の人材を活用するだけではなく、「外部の専門家」も活用して経営課題に取り組んでいます。
「定期的に経営相談を受けている会社の割合」は、従業員300人以上の規模の会社では83.3%にも上ります。しかし、会社の規模が小さくなるにつれて、この割合は小さくなっていく事がデータで確認できます。
また、中小企業の経営者が「経営の専門家」に相談している割合は11.0%に過ぎません。ほとんどの経営者の相談相手は、「身内」や「他の目的で取引している相手」だけなのです。
これらのデータからは、中小企業、特に規模が小さい会社は、「経営課題の解決の為に、専門家を十分に活用できていない」という事が読み取れます。
※野村総合研究所「中小企業の経営者の事業判断に関する実態調査」(中小企業庁委託)より
中小企業が経営の専門家を活用するメリット
経営の専門家を活用するメリットに関するデータも紹介しておきましょう。
前述の調査において、従業員300人以上の規模の会社の95.5%が「経営相談で受ける助言が役にたっている」と回答しています。
また、同調査では、「定期的な経営相談をしている中小企業は、経営相談をしていない中小企業よりも増収傾向と回答する割合が高い」という調査結果も示されています。
規模が大きい会社は、その多くが経営相談を活用し、そして、実際に改善に結びつけられているのです。
経営課題に取り組みたい中小企業が取るべき対策
最後に、中小企業がどのように経営課題に取り組むべきなのかについて解説します。
経営相談の活用
中小企業の多くは、経営に関する人材が社内で不足しています。また、経営について真剣に検討する場を設ける事すら出来ていない会社が多いでしょう。
こうした会社においては、よほど意識的に「経営課題を解決する」と決意し、そして、その為の一歩を踏み出さない限り、経営課題を解決させる事は難しいと言えます。
そして、多くの中小企業が採用出来る対策は、「外部の専門家を活用して、経営課題に取り組む」という方針に限られます。
その他にも、「専門的な人材を採用する」や「社内の人材を育てる」などの対策も有効です。しかし、「コスト」や「難易度」などの面で、これらの対策が現実的ではない中小企業は多いのです。
もちろん、「経営相談を受ける」という事に尻込みする中小企業の経営者の方が多い事も理解しています。
しかし、この点に関しては、中小企業庁が公表する中小企業白書においても、かなり以前から、「従業員規模の小さい企業は、今後の安定した事業継続のためにも、(略)定期的な経営相談により、的確な助言を受けることが望ましいと考えられる。」と結論づけられています。
考えるべきは、「経営相談を受けるかどうか」ではなく、「自社にとって、適切な相談相手をいかに見つけるか」という事だと考えて頂いた方が良いでしょう。
※中小企業庁「中小企業白書2012」より。
経営相談相手についてのおすすめ
そして、経営相談の相手としては、「日頃の業務運営とは関係ない相手」を選ぶ事をお勧めします。
多くの経営者には、そのような相手の心当たりはない事でしょう。ですから、新しい相談相手を探す事になるはずです。
しかし、既に関係のある相手だと、「自社の機密情報を相手に開示する事に抵抗がある」や「相手との関係を壊す訳にはいかないので、相手からの提案を断りづらい」といった問題があり、自社の経営課題について本当に腹を割った相談が難しいのです。
ですから、真剣に経営課題に取り組むつもりなのであれば、経営を相談する相手を新しく探し、その相手に相談される事をお勧めします。
中小企業の抱える経営課題と解決方法(まとめ)
- 多くの中小企業が抱えている経営課題をデータから確認すると「営業・販売力の強化」と「人材の確保・育成」という2つである事が解ります。
- しかし、この2つの経営課題は別々のものではなく、表裏一体のものであるという側面があります。
- 規模が比較的大きい会社は、経営相談を活用する事によって結果を出しています。これに対し、規模の小さい中小企業は経営の専門家を活用できていません。
- 経営課題を解決する為には、「経営相談を活用する」という対策が現実的です。そして、相談相手としては、日頃の業務から切り離された相手を探す事をお勧めします。