飲食店の経営
飲食店の経営は難しいと言われます。
しかし、飲食店の経営者(オーナー)に必要な知識さえあれば、飲食店の経営を改善したり、立て直しを実現させたりする事は十分に可能です。
この記事では、「飲食店の経営を行う上で、経営者が知っておくべき内容」を解説します。また、「飲食店の立て直しに取り組む際に必要となる知識と手順」についても説明します。
※この記事は、食事を提供する飲食店(レストラン)の経営に携わる方に向けた解説記事となります。カフェや喫茶店については、別途、記事を用意しております。
飲食店の経営に関するデータ
最初に、飲食店の経営に関するデータを確認しておきましょう。
外食産業の市場規模についてのデータ
まず、外食産業の市場規模について。
外食産業の2019年の市場規模は26.0兆円です。この数字は、5年前の2014年の市場規模である24.6兆円の105.8%です。そして、この5年間、一貫して増加傾向にあります。
料理主体の外食産業に絞った市場規模は21.1兆円ですが、この数字も5年前の107.7%です。更に、この数字から営業色の弱い業態(社員食堂など)を抜いた市場規模は17.7兆円ですが、この数字も5年前の109.1%です。
どのように数字を確認しても、外食産業の市場規模が縮小している事は確認出来ません。
すなわち、外食産業の市場規模のデータからは、「消費者(お客様)が外食で使うお金の量は減っていない(むしろ、増加傾向にある)」という事が解ります。
※データは、日本フードサービス協会の外食産業市場規模推計より。
飲食店の施設数についてのデータ
次に、飲食店の施設数について。
2019年度末時点の飲食店の施設数は1,418,627軒です。この数字は、5年前の2014年度末時点の施設数である1,422,809軒の99.7%です。そして、この5年間、施設数は前年度比で99%から101%の間に収まっています。
飲食店の施設数のデータからは、飲食店の施設数が横ばいである事が解ります。
ただし、2019年度に廃業した施設数は164,723軒です。この数字は、2019年度末の営業施設数の11.6%にも相当します。勿論、これだけの廃業があっても営業施設数が大きく減少していないのは、その分、新しく営業を開始した施設がある為です(2019年度の新規営業許可施設数は164,892軒)。
そして、このような傾向は、2019年度だけではなく、過去5年間変わりません。
これらのデータからは、「毎年、飲食店の閉店(廃業)は多く、同時に、新規参入も盛んである」という事が確認出来ます。
※データは、厚生労働省の衛生行政報告より。
飲食店を経営する事は難しいのか
書店に行けば、飲食店に関するガイドブックが多く並んでいます。ネットで飲食店を探すサービスの人気にも目を見張るものがあります。間違いなく、飲食店には、強いニーズがあるのです。勿論、先ほど紹介させて頂いたデータも、それを裏付けています。
ですから、「お客様が来てくれる店を作る」「お客様がお金を使いたい店にする」という事さえ出来れば、「飲食店は売上をしっかりと獲得する事が出来るビジネス」なのです。
その一方、先のデータからも解る通り、飲食業は「新規参入が活発なビジネス」でもあります。そして、「店に求められるものが多様で、かつ、変化するニーズに対応しないと顧客から選ばれ続ける事が難しいビジネス」でもあります。
この為、飲食店のビジネスには、「しっかりとした経営を行わない限り、店の経営状態を良好に維持する事が難しい」という面もあるのです。
飲食店の経営環境をまとめると、「業界の経営環境は悪くない」が、「新規参入があり、競争は激しい」為、「しっかりとした経営を行う能力がないと、良好な経営状態を維持していくのは難しい」という事になります。
※新型コロナウイルスによる影響を過度に心配されている方もいらっしゃいますが、「経営環境の変化」という視点で考えれば、決して、対応できない要素ではありません。
経営に失敗している飲食店が抱えている問題
飲食店へのニーズについての誤解
では、具体的に、経営に失敗している飲食店は、なぜ存在するのでしょうか。貴方の店の経営が苦しいとすれば、貴方の店に足りないものは何なのでしょうか。
結論を端的に言ってしまえば、経営が失敗している飲食店のほとんどでは、「何をすれば経営を立て直せるかを、経営者が解っていない」という現象が発生しています。
飲食店は、「価格に見合った食事を提供する」という解りやすいニーズに応えていれば良いように思われがちです。
しかし、本来、「食事」という行為の為に外食(テイクアウトを含む)をする必要はありません。飲食店でお金を払ってくれるお客様は、様々な理由(ニーズ)があるからこそ、飲食店を求めているのです。
そして、そのニーズは非常に多様であり、日々変化しています。また、様々な要因によって、それぞれの店が満たすべき「顧客ニーズ」は異なります。「貴方の隣の店」と「貴方の店」で狙うべき顧客ニーズが違うという事すら珍しくありません。
飲食店の経営を失敗させない為には、「貴方の店が対応すべきニーズ」を見極める事が必要です。
飲食店が行うべき対策についての誤解
しかし、その事が十分に出来ていない飲食店の経営者は、「隣の店と同じ事をすれば、自店舗も良くなるはず」や「利益が足りないので、仕入原価(材料費)や運転コスト(人件費や広告費など)を落とせば良いのだろう」などと単純に考え、対策を始めてしまいます。
強く警告しておきますが、飲食店の経営は、そんなに甘いものではありません。経営を立て直す為に必要となる対策は、店によって大きく異なります。ある飲食店では、「顧客を集める為の宣伝」が鍵となりますし、ある飲食店では、「店内のコンセプト変更」が鍵となります。
個々の飲食店によって、「実行すべき対策の方向性」は異なり、間違った方向性の為に努力しても、結果には繋がらないのです。「自店舗にあった対策を見極めて実行しない限り、経営は改善しない」と肝に銘じて下さい。
経営を立て直す難易度を見極める重要性
経営改善の為のポイントを説明する前に、飲食店の経営の立て直しに取り組まれる方が知っておくべき「大切な事」を、一点、追加で説明しておきます。
実は、飲食店の経営要素の一部は、開店時に決まってしまっています。後から、「開業時に決めた(行った)ことを無かったことにする」のは難しい部分があるのです(立地、店の為の投資、借入など)。
大企業が運営する飲食店であれば、「全ての経営要素を見直して、開店からやり直す」といった対策もあり得ますが、それ以外の飲食店(中小チェーンや個人店)では、そのような対策は現実的ではないはずです。
ですから、経営を立て直す為の対策を実行するのであれば、まず、「立て直しの実現性(難易度)」や「今から出来る対策の幅」といったものを見極めておく事も大切です。
残念ながら、「今から実行可能な対策を行っても黒字化は難しいので、少しでも早く閉店した方が良い」というケースも存在します。
厳しい事を言いますが、そのようなケースに該当する場合には、対策の為に時間やお金を使うのではなく、少しでも低いコストで閉店し、次のキャリアに繋げる為のプランニングが大切です。
飲食店の経営改善の為のポイント
飲食店の経営改善を行う場合、次のようなポイントを押さえておく事が大切です。
コスト構造の見直し
まず、コスト構造の見直しは不可欠です。
飲食店の経営改善というと、「売上をアップさせる」という事だけを目指される方が多く、少し経営に詳しい方でも、「原価率を下げる」「削れる経費を、とにかく削る」といった発想をされがちです。
しかし、飲食店のお客様は原価に敏感な方が多く、また、売上とシビアに連動する費用も多くあります。この為、「単純に、原価比率や費用を圧縮すれば良い」という考え方ではなく、「どのくらいの費用を使って、どれくらいの売上を計上するのか」という全体で考えないと、改善は達成できません。
飲食店は、最終的な売上や利益を計上する為に、材料以外にも様々な費用が必要となります。この為、飲食店の多くは、「一見、利益率が高そうに見えるが、実は、最終的な利益率は低い」という利益構造になっています。
そして、「利益を出す為に、どのような費用を、どのくらい使って良いのか」という点は、ほとんどのオーナーが考えているよりも複雑です。深く考えずに取り組むと、目も当てられないような結果に終わる事が多いのです。
利益改善には、原価率や費用など単体ではなく、「全体のコスト構造の見直し」という視点で取り組むべきなのです。
満たすべき顧客ニーズの見極め
また、売上に関する改善を考えるのであれば、「どのようなニーズを満たすべきなのか」という事を正しく検討し直す事も欠かせません。
期待通りの売上が上がらない場合、「その店が提供している価値が、その店に求められているニーズと合っていない」というケースが多いと言えます。
その他の理由としては、「満たすべきニーズの方向性は合っているが、そのニーズを十分に満たせていない」や「目標売上が高すぎて、今の方向性では実現が困難」といった場合もあります。
売上が期待ほど上がらない理由を正確に理解し、その上で対策を検討する必要があるのです。勿論、飲食店へのニーズは変化しますので、以前、ある方針で成功したからといって、今後も同じ方針で良いとは限りません。
適切な分析や対策が出来る能力者の確保
そして、経営改善に取り組む飲食店の多くが失敗してしまう「根本的な原因」についても触れておきましょう。
ここまで説明してきた通り、飲食店の経営を改善する上では、一般的な事業会社と同じように、様々な分析や検討を行う必要があります。
しかし、ほとんどの飲食店には、そのような作業を十分に出来る人材がいません。この為、適切な作業が進められないのです。
更に、経営改善の実務経験がある専門家と顧問契約を結んでいる飲食店も稀です。ですから、ほとんどの飲食店は、経験豊富な外部人材も活用できない状態にあるのです。
このような状態で「経営改善に取り組む」という事は、料理経験がない人材だけで飲食店を開くようなものです。当然、成功は難しくなります。
経営改善を成功させたければ、まず、必要となる作業を行う為の「人材の確保」も必要となるのです。
飲食店の経営改善を行う為の具体的な方法
立て直しの為の手順
貴方が飲食店の経営の立て直しに着手する場合、まず、貴方がやるべき事は、「立て直しが現実的に可能なのか」という判断です。
本来、「立て直せない」という事はあり得ないのですが、前述の通り、お店の置かれている状況を踏まえると、「撤退した方が良い」という結論を出さざるを得ない場合もあります。ですから、まず、この判断は行っておくべきです。
その上で、「目標とする売上や利益の水準」や「目標とするコスト構造」を設定し、同時に、「なぜ、その水準の売上や利益を、今、獲得できていないのか」といった分析や、「どのようなニーズを満たすべきなのか」といった検討を進めていくようにして下さい。
最後に、具体的な対策を定め、実行していく事になります。
対策を行う体制の構築
また、多くの場合、対策の為の体制の構築(人材の準備)も必要となります。
本来は社内に人材がいれば良いのですが、基本的な分析作業が出来る人材さえ不足している事がほとんどです。この為、多くの飲食店では、外部の専門家に相談する事で、この人材不足の問題に対応する事になります(人材不足のままで対策に取り組む怖さは、前述の通りです)。
ただし、相談する専門家の選び方には、十分に気をつけるようにして下さい。必要となる対策は、店によって大きく異なります。貴方の店の立て直しに必要なのは、「他の店で効果があった方法を教えてくれる専門家」ではなく、「貴方の店に合った方法を教えてくれる専門家」です。
飲食業界に特別詳しい必要はありませんが、しっかりとした分析をもとに、貴方が「十分に納得できる提案」をしてくれる専門家に頼るようにして下さい。
参考にして頂きたい対策の進め方
なお、当社で飲食店の経営改善(立て直し)の相談を受けた場合には、まず、「オーナーが開業する事にした経緯」や「今のお客様から評価されているポイント」などを十分にお聞きします。
様々な事をお伺いするのは、店の存在意義を維持する上で、それら要素の重要性を理解している為です。特に、「オーナー自身がこだわっているポイント」を軽視した経営改善は無意味だと考えています。
その上で、現状の数字を確認し、独自の分析方法によって「改善の難易度」を算出し、また、実現可能な方向性についてオーナーに提案をさせて頂いています。
また、方向性についてオーナーと合意できた場合には、「実行する具体策」と「期待できる効果」についても解りやすく説明させて頂き、十分に理解して頂いた上で、実行に移す段取りとしています。
なお、経営改善の実行段階においては、オーナーや現場が中心となって対策を実行して頂くようにしており、当社はそのサポートに徹する事にしています。これは、飲食店の経営を長期的に安定させる為には、現場に経営改善に取り組む力を付けて頂く事が大切であると考えている為です。
経営改善を目指す飲食店の経営者の方は、これらの内容を参考にして、検討や対策に取り組んで頂きたいと思います。